もぐらぼ研究室について

MOriya GRowing Agriculture LABOratory=もりや産業農業発展研究室。新しい農業(ニューアグリ)に必要な各分野の最新の研究成果をご紹介します。

※掲載している文章は、龍谷大学 農学部 資源生物化学科 佐藤茂教授に教えていただいたことを基に当サイトで作成したものです。

mograbo,研究室

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2016.07.22 エチレン第二講 花はどうして枯れるの?実はわざと枯らしている!?

ラボラトリー 
「実は、花もリストラするんですよ。」といきなり聞かされると???となってしまいますよね。リストラは私たちの生活の中で良く耳にする言葉になっていますが、正確にはリストラクチャー、つまり“再構築”とか“作り直し”という意味です。で、花のリストラ・作り直しって?それでは、第二講を始めることにします。

植物は、発芽してから成長し最後に種子(子孫)を残すまでの幾つかの過程で、昆虫や小動物の力を上手く利用しています。そのうちの一つが、第一講でリンゴを題材にしてお話ししたリスや野ネズミのような小動物を利用して、自分の種子を自分から離れた場所に運んでもらう戦術です。美味しい果肉を提供する代わりに、種子を遠くに運んでもらう、正に、ギブ&テイク。自然界の共存共栄の一つの姿と言えるでしょう。

花の蜜を吸いに寄って来る蝶やミツバチのような昆虫と花との間にも、ギブ&テイクの関係があります。花は甘くて美味しい蜜を昆虫に提供する代わりに、雌しべに花粉を付けてもらい、受粉・受精を助けて貰います。同じ花の花粉を受粉してしまうこともあるようですが、多くの場合、他の花の花粉をつけた虫を呼び寄せ、雌しべに付けて貰っているようです。これは、自分では移動できない植物が近親交配を避けるための巧みな戦術です。

蝶やミツバチを呼び寄せるためには、花はきれいでなくてはなりません。香りも大事。そしてなによりも、甘くて美味しい蜜が必要です。これらを揃えるために、植物は糖質やアミノ酸などの栄養を惜しげもなく投入します。植物は、花にそれだけの“費用“を賭して、受粉・受精という”成果“を期待しているのです。

それでは、リストラ(作り直し)の話に入ります。無事に、受粉・受精が成立しました。この段階から植物は、栄養のほとんどを種子の育成に注ぎ込むようになります。光合成で作り出したり、根から吸い上げた新たな栄養だけではありません。既に植物が体内に保有している栄養も、使えるものは何でも種子の育成に使われます。その一番の標的になるのが、花弁に蓄えられている糖質・アミノ酸です。受粉が完了してしまえば、植物にとって花はもうお役御免です。私たちが、もう少し愛でていたいと思っても、要らないものは要らない。植物の種の保存のために必要且つ冷静な判断が下されます。

ラボラトリー
「もうその事業(花)は不要だから、余った人員(糖質・アミノ酸)をこっちに回して。」という指令が出されると、花弁細胞のなかに蓄えられている糖質・アミノ酸を取り出すために、エチレンガスを生成し花弁細胞を破壊し始めます。つまり、花のリストラです。

私たちの目には、「花が萎れて、枯れて行く。あぁ、可愛そうに。」と映りますが、植物が子孫を残すためには、どうしても必要なプロセスで、それは最初からプログラミングされていることなのです。だから、花のことを思って、可愛そうにと思う必要はないのです。

花を美しい状態で保つための研究・技術開発は、以前から進んでおり、生産~販売~消費者の各用途で様々な製品が使用されています。近年ではエチレンガスをコントロールするだけではない、新たな手法にも目が向けられています。

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研究室過去記事一覧

2016.04.19 エチレン第一講 なぜリンゴは腐ってしまうの?実はわざと腐っている!?

ラボラトリー 
新鮮でおいしそうなリンゴも食べずにそのままにしておくと、やがてしなびて色が変わり腐り始めます。せっかくのリンゴが腐ってしまうのを見ると、私達はもったいないと思ってしまうのですが、当のリンゴは子孫繁栄という目標を達成するために、自身の姿を変化させているに過ぎません。つまり、全て計算されて意図されたプログラムを粛々とこなしているだけなのです。

枝からもがれてからも、リンゴの香りは強みを増して行きます。この現象を“追熟”といいますが、枝から切り離されたところで成長が止まるのではなく、その後も続いているのです。だから、追加の成熟、つまり“追熟”です。そして、この追熟を引き起こす物質が、エチレンという無色無臭の気体で、リンゴ自身が生成しています。

では、なぜ、リンゴはエチレンを生成して追熟し、強い香りを放つのでしょうか?それは、鳥・リス・野ネズミ等の小動物を呼び寄せ、自分の身をどこか離れた場所に運ばせるための戦術なのです。リンゴは植物ですから、自分で移動することができません。親であるリンゴの樹の根本に沢山の子が芽を出したのでは、親子で陣取り合戦をしなければなりません。それでは、子孫繁栄どころか、共倒れの危険性も出てきます。そこで、親子で無用な争いをしなくとも良いように、リンゴは“追熟”して芳香を放ち、小動物を呼び寄せ、親から離れた場所に自分自身を運ばせる戦術を身に付けたのです。かなりの知能犯ですね。ちなみに、元々自然界にあった野生のリンゴは直径2cm程の小さな実で、鳥やリスが簡単に運べるサイズだったそうです。ふだん私たちがスーパー等で見かけるリンゴはみな、人工交配による品種改良の賜物です。

ラボラトリー
小動物に運ばせるだけならば、甘い香りを放って呼び寄せるだけで十分なのですが、リンゴの子孫繁栄戦術は、そこで終わるわけではありません。果肉の中心部にある種子が、地表にたどりつくまで次の戦術がプログラムされています。果肉はだいじな種子が内部で成熟するまでは、保護プロテクターの役割をしています。種子が発芽の準備体制に入る時には邪魔になるため、これを取り除く必要があります。

手っ取り早いのは、自分を運んでくれた小動物をもっと利用することです。エチレン反応によって“追熟“し、おいしくなった果肉を小動物に食べさせ、中に隠れていた種子を地表に落とさせる、これも戦術の一部なのです。

しかし、うまい具合に小動物が果肉を食べてくれなかった場合は、自力で果肉を剥ぎ落とすしかありません。では、どうやって? そのための最終戦術が、過熟(追熟の最終段階)による軟化と腐敗です。過熟では、“追熟”過程で生成した以上のエチレンガスを生成し、その作用によって果肉の軟化と腐敗を引き起こし、中の種子が外に出られるようにするのです。このようにして、果肉から外に出ることができた種子は、次の春の到来を地表で待つことになります。

近年ではリンゴをはじめとした果物・野菜のエチレンガスを上手にコントロールし、新鮮なまま長期間貯蔵する研究が進んでいます。今後の人口増加に伴う食糧不足の解消や、青果物の輸出入や国内の長距離の輸送の改善での効果が期待されています。