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2023.10.31

業界コラム

フィジカルインターネットとは?国内物流の「超効率化」に向けて

今回のテーマ、「フィジカルインターネット」って、インターネットの話じゃありません。「インターネットみたいな物流」の話です。ちょーっとわかりにくいんですが、物流の近未来を考えるとやっぱり必要か・・・という今回のテーマ、時代の先端を行ってます。フィジカルインターネットはまだコンセプトレベルと言ってもいいでしょう。しかし、ほうっておけば必ず訪れる物流危機を回避するため、官民一体となって取り組みが始まっています。これからの物流はどうなるのか・・・まだまだ未確定な部分も多いので、みなさんも一緒に考えてみて下さいね。

物流の近未来は・・・大丈夫?

予測統計を元にして物流の近未来を見てみましょう。まずは、統計からわかることを3つ示します。


1)労働人口は少子化に伴い、減っていきます。
労働人口とされる15~64歳人口の推移グラフをご覧ください。2000年に8,600万人ぐらいいる労働人口が2030年には6,700万人、2050年には5,000万人ぐらいになってしまいます。いつでもどこでも話題に上る、典型的な少子高齢化の話ですが、頭の隅に置いていただきたいのは、日本は諸外国に比べて労働力不足がとても深刻なのだ、ということです。

2)物流の取扱件数はEC購入により、増えています。
ECサイトの発達に伴い、以前から荷物の個数は徐々に伸びていましたが、コロナ禍をきっかけに、その傾向に拍車がかかりました。グラフを見ると2020年から取り扱い個数が増加しています。商品比較の利点や検索・購買の利便性、ポイント等サービスの付与から考えて、ECサイトでの購入はこれからも増えるでしょう。

3)即日・翌日配達など、配達の多様化に伴い、トラックの積載率は減っています。
出荷1件あたりの平均貨物量(平均流動ロット)は 2000年1.73トンから0.83トンまで半分以下に減少しました。こちらにもECサイトでの影響が出ていると思われます。また、即日、翌日配達が増えるということは、時間に追われて十分な積載ができないまま、トラックを繰り出すことになり、結果、積載率が下がります。

これらの統計事実をまとめると、荷物は増えるけど、積載率が減ったガラガラのトラックをフル稼働しなくちゃいけない。でも働く人はだんだん減っていく、ということになります。・・・これではうまく行きませんよね。この状況を「物流危機」「物流クライシス」と呼びます。この問題は現実で、深刻なのは、労働人口減少は止められない、2030年には需要の34%運べない荷物が出てくる(経産省Web掲載:フィジカルインターネット実現事務局資料より)という点です。モノを送ろうとしても、3回に1回は送れない社会。きっと、国全体の経済成長に影響する大問題となります。

インターネットの概念を取り入れた「フィジカルインターネット」とは?

そのままにしておけば、国の成長ブレーキとなり、ひいては日本が二流国以下へと転落する要因にもなりかねない物流危機。その解決を示す方法のひとつとして提唱されているのが、米国・ブノア モントルイユ教授(ジョージア工科大学)が提唱する「フィジカルインターネット」です。
では、フィジカルインターネットとはどういうものか。内容を損なわずに最もミニマムに言えば、『荷物と配送情報を規格化し、物流を共有手段として究極の効率化を目指す仕組み』です。・・・イマイチわかりにくいですよね。そうだと思います。この仕組みはインターネットの概念にたとえて説明されますので、以下にできるだけ簡単に説明します。

 メール送信など、インターネットで相手にデータを届けるときは、送るデータを「パケット」という単位に細かく切り分けて送信します。1パケットは128バイトと決まっていて、パケットには共通ルール形式の宛先(IPアドレス)が必ず付いています。送信時に相手先が大きなデータを受けていても、データは他のパケットとごちゃ混ぜに届き、届いた先で整列されてデータとして復元されます。また、インターネットは小さなコンピュータのつながりの集合体であり、誰のものでもありません。つまり、インターネットでデータを送るときのポイントは以下の3つです。
・どんなサイズのデータもパケット単位に切り分けて送る(規格化)
・どのパケットにも共通ルールの宛先(IPアドレス)が付いている(ルール化)
・データの送信ルート(インターネット)は共有のもの(共有化)

さて、これを物流の世界に置き換えてみましょう。ムリがあってもまずは読んで下さい。

・どんなサイズの荷物も決まったサイズに分割して送る(規格化)
・どの荷物も宛先の付けかたなど、共通システムで運用されている(ルール化)
・物流の手段(トラック・船・航空機)は共有のもの(共有化)

いや、ムリでしょ!荷物の規格化??バラせないでっかい荷物はどうするの!?各社IoTの仕組みなんてバラバラですよね!物流手段共有って、たとえば競合する荷主さんの荷物を一緒に運ぶってこと!?・・・はい、ごもっともです。現段階ではとても現実的とは言えません。でもね、やらなきゃ物流危機です。人口減少は止まりません。時は否応なしに流れます。やる?やらない?この究極の2択、どうします?

フィジカルインターネットのいいところ、考えてみましょう。

実際、ハードルはメチャメチャ高いんですが、あきらめてしまうと厳しい現実が来てしまいます。少しでも元気が出るように、フィジカルインターネットのいいところを考えてみましょう。
まず、荷物のサイズが規格化されれば、トラックにパンパンに積むことができ、積載効率がアップします。物流を共有化し、目的地ごとにどんな荷物も一緒に送れれば必要なトラックの台数は少なくなりますし、運転に必要な人の数も少なくなります。競合する企業が共通のシステムを使用して、AIとピッキングシステムなどのIoTを組み合わせれば、トラック荷台の前から奥へ配送ルート順に、当日・翌日配送オプションを考慮しながら荷物を積むことだってできるでしょう。

このようにして、少ない人数でもサービスの質を維持しながら大量の荷物を運べるようにすることがフィジカルインターネットの目的です。
さて、わかりにくかったフィジカルインターネットとは?のミニマムな説明、
『荷物と配送情報を規格化し、物流を共有手段として究極の効率化を目指す仕組み』
伝わりましたでしょうか。

少しずつですが、もう始まっています

政府は総理指示のもと、令和5年3月31日に「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」を設置しました。続いて同年6月2日に第2回を実施し、商慣行の見直し、物流の効率化、荷主・消費者の行動変容について、抜本的・総合的な対策をまとめた「物流革新に向けた政策パッケージ」を決定。競合さんの呉越同舟での配送、もう仕方ないじゃん、というわけです。他にも、メーカーとJRの輸送協業、九州新幹線の博多―鹿児島中央間での貨客混載事業開始。小売り業界ではセブン―イレブン・ジャパンとファミリーマート、ローソンのコンビニ大手3社が20年8月に、店舗への配送に同じトラックを使う共同配送の実験を行っています。
まだまだコンセプトレベルですが、未来を予測できそうな先端情報がみなさまの「お役立ち情報」となれば幸いです。