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2024.01.23

業界コラム

半導体スーパーサイクルにより変わる物流

 今回は久しぶりに景気のいい記事です。今バブル?バブルなの!?といった内容が満載。ではそのバブル、どこで起こっているかというと、熊本県菊陽町という人口44,000人ぐらい(2023年12月現在)の緑豊かでのどかな町です。

 地方公共団体は規模の大きい順に大都市>中核市>特例市>都市>町村と名称が付いていますが、菊陽町はその名の通りいちばん小さな「町村」にカテゴライズされます。

 場所は熊本市から距離にして15㎞程度、熊本市で働く人のベッドタウンという側面を持ち、町内に阿蘇くまもと空港を擁していますが、そんな菊陽町に世界最大の台湾受託半導体製造企業 TSMC(台湾積体電路製造)が新工場を建設決定したことからこのバブルは始まります。

 TSMCがどれだけ大きな企業かというと、iPhone、iPadのチップは全部TSMCが生産、と伝えればよいでしょうか。

 もちろん、TSMC米国、TSMC中国も他にありますが。そのTSMCの菊陽町新工場建設における投資金額は1兆円。政令指定都市である名古屋市の過去最高という2023年一般会計予算が約1兆4000億円ですから、そんな金額をブッ込まれた菊陽町は、それはそれはバブルに沸くというものです。(すべての金額が菊陽町で使われるわけではありませんよね。すみません、大げさに書きました。)

半導体進出に沸くシリコンアイランド

 ではまず、代表的な指標となる地価上昇率から。

 菊陽町の「工業地」地価上昇率は31.6%(令和4年度)で全国1位。「商業地」は21.7%、「住宅地」9.7%のup(令和5年3月)でともに熊本県内1位。持っていた土地を売却した人、不動産業の人、ともに大きく潤ったのではないでしょうか。

 そんな地価上昇率でも、地元の熊本銀行には土地を確保したい企業が200社以上も殺到、町の政策として農業を大切に守るために企業立地を制限しているのでさらに地価高騰は続くものとみられます。今のところ、近隣市も含めて令和9年までに県・市が分譲整備を計画している用地は100ヘクタール弱、つまり1万平方キロメートルになります。

 これって、最終的にはいくらになるんでしょう?

 2025年のTSMC生産スタート時は1,700人体制と言われ、そのうち700人が新卒・中途採用の見込みです。となると、それだけの住居が必要になりますが、賃貸マンション、新築マンションはほぼ埋まっている状態で、新しいマンション用地ももう残りわずかだとTVで報道されました。新卒・中途採用社員とその家族まで含めれば、この1~2年での人口増加は3,000人近くになるかもしれません。

 事実、直近2年間は500名単位で人口が増加しています。そうなると、住宅だけでなく消費も爆上がりになることが予測されますから、飲食店を始めいろいろな店が進出しています。

 交通だって、JR九州・豊肥本線(2両編成)の朝夕時間帯は大都市並みのラッシュです。菊陽町は前後の三里木駅と原水駅の間にあり、駅間距離も長いのですが、これまでは市が新駅設置をJR九州に要望しても十分な利用客数が見込めないと見送られていました。しかし、2023年12月には町とJR間で新駅設置の覚書が締結され、2027年春開業の予定です。

 さらに、すでに運行している原水駅からセミコンテクノパークへの「セミコン通勤バス」もダイヤ改正、土日祝日運行が決定。テクノパーク近辺は毎朝渋滞が発生する状況です。

 土地、住宅、店舗、交通すべてが活発化し、空前の景気に沸く菊陽町。ここは本当に日本!?というぐらいの状況です。

とても右肩上がりとは言えなかった、国内半導体産業のあゆみ

 もともと、九州は世界から「シリコンアイランド」と呼ばれています。「電子立国日本」などと言われて、日本が半導体シェアの約半分を生産していた1980年代ごろのことです。

 九州で半導体産業が発展した要因はいくつかあります。まずは製造工程上必要となる「超純水」の元となるきれいな「水」が豊富にあること。この資源は約半世紀経った今も生命線で、地下水の涵養は進出企業にとって必須の条件となっています。
 
 加えて、電力が比較的安価、人材の質の高さ、土地の安さなどがあり、1988年には世界約50.3%の半導体を生産するというシェア最盛期を迎えます。

 しかし、その後バブルが崩壊。日本経済は一気に下降し、失われた30年と呼ばれる低迷期が続きます。その中でも半導体は処理ウェハの大口径化、太陽電池セル生産、有機EL開発などの明るいニュースが出ては沈静化し、シリコンサイクルと呼ばれる景気と不景気を繰り返しながらも長期的には下降していきます。

 そして一時は49%もあった世界シェアは2019年にはついに10%まで落ち込みました。

 世界規模での視点で見た場合、台湾への半導体生産一極集中はいろいろな問題を孕んでいます。

 たとえば、もし台湾が中国に併合されたら・・・中国の力による現状変更への不安、コロナ開け半導体不足による国内生産へのブレーキ、国内業界不信のテコ入れから、政府は自国での半導体製造が必要と考え、大きく半導体産業への投資に舵を切ります。

 投資補助を大型化する法改正を行い、2022年には1兆3,000億円という前代未聞の予算を計上。半導体だけではなく、材料、製造装置・周辺機器といった関連産業へも支援を強化。自動車自動運転、AIによる自律制御、よりセンシティブで快適な家電など、需要の後押しもあり、半導体産業は乱高下するシリコンサイクルから抜けだし「スーパーサイクル」へ入ったように見えます。

 TSMC以外にも、ラピダス、キオクシア、ルネサスなど半導体産業は再び活況を呈しています。

半導体企業の進出により変わる、九州の物流

 半導体生産に伴う物流には傾向があります。ひとつはTSMCも千歳のラピダスも工場の近くに空港があるという点です。これは、軽量で製品単価が高い半導体は、供給に空輸が使えるからです。

 逆に、薄利多売の安価な製品はコスト面から空輸ができません。そのため、供給スピードを重視して、工場、倉庫、空港間の輸送はトラック、世界各国への供給は航空機が主な輸送方法となります。

 TSMC工場新設に先行して郵船ロジスティクスが2022年4月に熊本営業所を開設。2023年3月に菊陽町近郊の益城町・熊本支店総合物流事業所益城センター内に半導体事業所を開設。2024年3月には半導体専用倉庫も開設が予定されています。

 鴻池運輸も2023年4月から熊本事務所を開設しました。NRS(旧日陸)は2023年8月、熊本県大津町に総合物流拠点となる熊本支店を開設。保管・配送のワンストップサービスを開始するなど物流拠点も続々とオープンしています。

半導体業界の動向は、物流業界にとってひとつの未来予測となります。日本は、生産技術・設備の切り売りをやめて、今は苦しくとも、国内での生産へとスイッチしました。この傾向はこれからも続きます。

 高額でデリケートな半導体製品を扱う技術、人材の育成、拠点確保、空調などの専用設備、輸送に関する自動化技術、製品の追跡・管理技術などハードルは高いのですが、その向こうには大きな利益と明るい展望が待っています。実現すれば物流技術のステージも一段階上がるでしょう。

 これから始まる半導体スーパーサイクルに物流面から参画されようとお考えなら、もりや産業がお役に立てるかもしれません。高度物流拠点の創造に豊富な知識と実践力でお応えします。どのような難題でもお気軽にぜひお声がけ下さい。