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2025.01.07

業界コラム

農産物輸出拡大のための輸出促進法とは?

 今回は、これまで紹介してきた農林水産物輸出のベースとなる法律「農林水産物及び食品の輸出の促進に関する法律」(以下、「輸出促進法」)そのものにスポットを当てて詳細に解説していきます。

 概念的な傾向について、これまで解説してきましたが、その根幹となっている法律そのものはどのようになっているのでしょうか。まずは、この法律はなぜ制定されたのか、その背景から解説します。

輸出促進法制定の背景

 国内の食料支出総額の変化について、農林水産政策研究所「人口減少局面における食料消費の将来推計」(2014年6月)では、2010年を指数100とした場合、2030年には97に減少すると見られています。

 統計タイトルの通り、長期的に見て人口は減少しますから、需要となる食料支出総額も減少します。2014年の統計が元になっていて、近年ますますひどくなる物価上昇率はおそらく勘案されていませんから、2030年度の減少はもっと深刻なものになります。

 需要が少なければパイの奪い合いになりますから、そこで生産者の淘汰が起きてしまい、生産者数自体も減少するでしょう。それは産業の毀損であり、回復するにはかなりの困難が予想されます。食料の供給は国家の根幹的な問題です。コロナの時のように、いざ輸入に頼れなくなったときに国民の多くが困らないためにも、ある程度の確保や産業自体の保護は必要になります。

 一方、世界規模で見た場合、飲食料市場規模は同研究所の推計では2015年に890兆円だった額が1,360兆円にまで、約1.5倍もの拡大が予想されています。

 世界の各地域すべて上昇しているのですが、中でもアジアの成長は420兆から800兆へと2倍弱の成長が見込まれています。中国をはじめとするアジア諸国の人口増加もありますが、それにも増して拡大している原因はアジア各国の経済成長でしょう。

 このような背景のもと、農林水産省は「我が国の農林水産業及び食品産業が発展するためには、更なる輸出拡大が不可欠」という判断を下しました。

 そして、その判断を実行するための施策が、「農林水産物及び食品の輸出の促進に関する法律」いわゆる、「輸出促進法」となり、令和2年(2020年)4月1日に施行されました。

輸出促進法の目的

 このように輸出促進法の目的は、「農林水産業および食料生産者の持続的な発展と継続的な保護」になります。施行年がコロナ蔓延のまっただ中であることから、政府の深刻感も伺えます。

 輸出促進法にはふたつの基本方針の主要事項があり、ひとつは輸出先国の政府機関との協議に関する事項、もうひとつは輸出を円滑化するために必要な証明書の発行その他の手続の整備に関する基本的な事項になります。

 輸出先国との協議とは、「輸出先国による食品安全等の規制等への対応」で、簡単に言ってしまえば輸出規制の撤廃や条件緩和です。中国のALPS処理水(廃炉原発処理水)の海洋放出に伴う輸入規制強化=原産地を日本とする水産物の輸入禁止、は2023年8月から始まりましたので、みなさんの記憶に新しいことと思います。その後、ロシア、香港、マカオもこの輸出規制に乗っかりました。

 輸出の円滑化については、証明書の発行や都道府県との連携など、あの手この手で輸出拡大のための施策を策定するところまでを行い、法整備をすることで地方自治体や関連団体が具体的な実行をやりやすくするものです。

 どちらも企業レベルの努力では達成することができません。また、農林水産省を軸として、総務省、外務省、財務省、厚労省、経産省、国交省にまたがっての調整も必要となるため、けっこうたいへんと言うかめんどくさいというか・・・それでも、国はあえてこの問題に真正面から取り組んでいます。

 その効果もあり、2024年9月20日、中国は安全基準に合致した日本産水産物の輸入を再開させることで合意しました。輸出促進法目的のひとつの達成と言えます。

輸出促進法の影響範囲について

 さて、輸出促進法はどの業種までが対象になっているのでしょうか。農林水産物はもちろんですが、それらを原料として製造・加工したものも対象に含まれます。

 また、加工された食品には、全ての飲食物が含まれます。(医薬品医療機器等法で定められた一部の商品を除きます)およそ、すべての農林水産物とその加工食品が対象とされ、なるべく規制や制限を付けたくないという政府の姿勢が伺えます。これは、未来を見越しての考えでしょう。

輸出促進法の具体的内容

 輸出促進法の具体的内容をわかりやすく伝えるために、「農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略」レポートを見てみましょう。

 このレポートは、輸出促進法が施行されてから、毎年見直されている、政府閣僚会議級(かなり上位)のレポートです。まずは、見出しを列挙するだけでも輸出促進法の内容を窺い知れます。

 ざっと見ただけでも、かなり力が入っていることが見て取れます。それでは、この項目ごとにその内容を見てみましょう。

輸出重点品目(29品目)と輸出目標の設定

 前回の記事でこの具体的内容を記述しています。牛肉、果樹、茶、ぶり、ホタテ貝など輸出高の大きい日本の強みでもある29種類の輸出重点品目が具体的に決定され、それぞれについて輸出額目標も設定されています。

 また、それぞれの品目ごとに輸出促進のための、これから行う取組内容も決められました。

輸出重点品目に係るターゲット国・地域、輸出目標、手段の明確化

 品目ごとに、その品目がどの国のどの地域で売れるのかを示し、その目標額を設定します。どこで売れるのかは、生産者にはわかりにくい、もしくはエビデンスが得にくい情報ですので、その部分を政府が教えてくれることは、大きな助けになります。

 また、現在輸出高が多い国だけではなく、これから需要が伸びそうな国や地域についても情報提供があります。国が提供するブルーオーシャン市場の情報提供ですから、大きな支援となります。

品目団体の組織化及びその取組の強化

 輸出重点品目については、生産から販売に至る関係事業者を構成員としたオールジャパンによる輸出促進活動を行う団体を創設します。こちらは認定が行える団体で、安全な日本産であるという証明を行いながら、認定に際しての必要な助言も行います。

 輸送中における腐敗や品質劣化等の事故要因に係るデータ収集やリスク評価や、物流効率化や品質保持に向けた包装資材・保管技術の実証・普及、業界規格の策定等に積極的に取り組み、将来的には、販路開拓を直接現地で実施する海外拠点の設置や、必要な取組を業界関係者とともに検討し、積極的に実施するようにします。

輸出先国、地域における専門的・継続的な支援体制の強化

 在外公館、JETRO海外事務所、JFOODO海外駐在員を主な構成員とした輸出支援プラットフォームを設置します。現地で食品産業等に精通した人材をローカルスタッフとして雇用・確保し、その知見や人脈を活用して、先の項目にある認定品目団体とも連携しながら支援します。

 現在8カ国の地域にプラットフォームは設置していますが、マレーシア(クアラルンプール)及びUAE(ドバイ)にも新設、米国にはヒューストン事務局を追加設置します。

JETRO、JFOODOと認定品目団体等の連携

 JETRO(ジェトロ:独立行政法人 日本貿易振興機構)では、認定品目団体等との意見交換の継続、JETROへ事業の委託要望があった場合には優先的に検討・対応を行い、海外バイヤーの国内見本市招聘や情報の分析、提供を行います。

 JFOODO(日本食品海外プロモーションセンター)は、ターゲット国・地域での現地体制を強化して、海外市場の消費者向けに日本の農林水産物・食品の魅力を効果的に伝え、導入・消費につなげる役割です。

 日本食ポータルサイト「Taste of Japan」の運用や日本産食材サポーター店の活用を通じた日本食・食文化の情報発信を行い、市場拡大を図ります。

日本食、食文化の情報発信におけるインバウンドとの連携

 外務省、農林水産省、国土交通省等の関係省庁は、日本食文化を、調理方法、食べ方、食体験等を通じて産地の文化とのつながりの発信等を進めています。その効果もあって日本食は海外に好イメージでかなり浸透しています。

 インバウンドの促進と連携した訪日外国人への日本の食や食文化の理解・普及を図ることで、日本の農林水産物・食品の輸出市場とインバウンド消費を拡大する取組を支援します。

 「○○法」といえば規制や罰則などで取り締まると言う内容がほとんどですが、輸出促進法については、全く逆です。このように具体的な細目を決めながら文章化どころか法律化してまで、輸出促進法は農林水産物と食品の輸出を進めようとしています。

 そして、令和4年の輸出促進法の改正では、さらに経済的支援に踏み込んだ内容が発表されています。次にその内容について紹介します。

令和4年(2022年)の輸出促進法改正

 2020年に発足した輸出促進法が、2022年10月に改正施行されました。この改正は、以下2点が重要な改正項目となっています。

 民間登録発行機関による輸出証明書の発行とは、証書発行のスピード化が期待できます。米なら米の、茶なら茶の生産者、流通業者で構成された民間登録発行機関は、業界のことを深く「わかっている」団体になります。

 よって、審査もスピーディーで正確になります。農林水産物の多くは「旬」を大切にしなくてはならない商品ですので、たいへん効果的です。「産地証明を求められた」「EU規制に準拠しているかの証明が必要」「(米国向けの)牛肉輸出のための書類が必要」などの問題がスマートに解決できます。

 また、このような民間登録発行機関を継続的に維持するためには費用もかかります。国は、当初はその費用を負担し、以降は自立的に運営できるように会員の増加や会費の徴収による運営まで示唆しています。かなり具体的に踏み込んだ内容です。

 日本政策金融公庫による資金援助や債務保証の支援とは、これから輸出を行おうとする事業者を強力にバックアップする資金制度です。この改正を受けて創設された農林水産物・食品輸出基盤強化資金は、設備だけではなく、運転資金や海外子会社での使用も可能で、中小企業者に対しては、10年超25年以内の償還期限が適用されます。これなら、加工場の創設など大規模な設備投資にも使用でき、輸出への参入機会がグッとひろがります。

 このほかにも、有利な税制となる5年間の割増償却措置や海外(現地)での資金調達に日本国が債務保証をしてくれるスタンドバイクレジットの内容も盛り込まれました。少し驚くほどの支援策と言えるでしょう。

もりや産業が提供できる物流支援

 私たち、もりや産業が農林水産物を輸出するかたにできる支援も掲載しておきましょう。主に輸送に関する製品や鮮度保持剤になります。項目を列記しておきますので、関心のある製品についてごらん頂ければ幸いです。

パレット貨物の荷崩れや果物の箱潰れなど
輸送中のトラブルを防ぐ、環境に優しい梱包資材。

パレット貨物を固定して荷崩れを防ぐ、
リーファーコンテナ専用の固定金具。

エチレンガスの吸着力に優れた、
野菜・果物・生花に使える鮮度保持剤。

軽量・燻蒸不要、送り先での廃棄も簡単。
輸出に適した紙製パレット。

現場の立ち仕事や冷えからくる足腰への
負担を軽減する。

まとめ

 輸出促進法は、農林水産物・食品を海外輸出するための強力な法です。法と言っても規制ではなく、推進・バックアップが主な内容で、先細りが懸念される第1次産業への根底的な支援策です。

 「売り先を提供し、輸出手法を提供し、お金も出す。ただ、私たちに生産はできない。どうか国内需要から世界市場へ目を向けてほしい。私たちは協力を惜しまない。」そのような、国の叫びにも似た意志がこの法律からは感じられます。今までの商流を変えるのは勇気がいることだと思います。

 しかし、このまま生産を続け、じわじわと苦くなることを予感されたなら、思い切って扉を開けてみるのはいかがでしょうか。「おいしい」は全世界共通です。日本食ブームがそれを示しています。私たち、もりや産業も物流面であらゆるノウハウを提供します。あとは、あなたの心だけがスイッチです。
全世界の人があなたの製品を待っています!