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2024.02.13
業界コラム
深夜0時の割引適用になるために、東名東京料金所の前でずらりと大型トラックが並んでいる社会問題を、これまで幾度か見聞きしたことがあると思います。輸送に関わるみなさまは十分ご承知と思いますが、これは高速道路深夜割引を得るための、いわゆる「0時待ち」現象です。
割引について関心が薄い、もしくは意識していない一般ドライバーから見れば、たとえば東名高速 東京料金所前に深夜0時前、謎の大型車両渋滞(というより停止滞留)が左車線にでき、左車線に入り込めなかった車両が中央寄りの車線にあふれ出しているという状況に、突然遭遇したように見えます。
さらに左車線を多用するバイクライダーから見れば、予想外の停止車両滞留がいきなり始まるように見え、中央、右へと車両の壁がふさがっているように感じるかもしれません。いずれにしろ危険です。
そこで、この問題を解決すべく、国交省はNEXCO3社と「高速道路の深夜割引の見直しの概要」を2023年11月、合同で発表しました。・・・が、この案、実はツッコミどころ満載です。
実施時期もわりと近く、2024年度中の実施を予定しています。割引の内容もかなり変わることから、お仕事にも大きく影響してくるでしょう。
では、どのように変わるのか、そしてどこがツッコミどころ満載なのか。その内容についてじっくりと解説しましょう。
まずは2024年2月現在の割引条件を確認しておきましょう。
現行の割引条件は、ETC搭載車両が深夜0時~4時の間に高速道路をちょっとでも走っていれば、利用した区間すべての料金が30%割引になる、というものです。
具体例で見てみましょう。たとえば名神高速道路の起点、西宮インターから東名の東京料金所までを大型車両で利用したとします。
NEXCO西日本のWebサイト「高速料金・ルート検索」で0時前に東京を通過する(割引対象外となる)場合、金額は18,720円と表示されます。この料金検索サイトは出発時間の調整ができますから、調整して0時過ぎに東京料金所を通過する設定に変更すると・・・13,100円 深夜(0-4時)と表示されます。その差5,620円は大きいですね。
もっと高速での走行距離が伸びれば、さらに割引額も大きくなります。また、仮に0時3分に東京料金所を通過すれば、割引時間帯には3分しか走っていませんが、全行程金額の30%が割引となります。
この金額差のため、「あと少し待って0時を超えてからインターを通過しよう」という車両が料金所手前で多く停止している現象が「0時待ち」です。
「0時待ち」が発生する原因は、「ちょっとでも0時~午前4時に高速道路を使用している時間があれば割引適用」という条件にあります。
そこで今回、国交省とNEXCO3社はまずは『割引適用時間に走った分だけ』割引を行う、という条件に大きく舵を切りました。そうすれば、たった数分の分しか割引が受けられませんから0時待ちは解消するでしょう。
でも、それだけでは単なる割引額の削減になってしまいます。拒否反応も大きく出ることが予想されます。そのため、かどうかはわかりませんが、現時点の案では割引適用時間が「22時~午前5時」へと3時間拡大されています。下の図で見てみましょう。
割引時間帯に走った分だけ、3割引にしますよ。全区間の3割引じゃないですよ。ということですね。
それでも、こんな決まりにすると「よーし、22時から午前5時の間にどれだけ走れるかが勝負だな!時速200㎞/hでブッ飛ばすぜ!!(違反です)」なんて人が出てきますから、割引には「軽自動車等・普通車・中型車・乗合型自動車は利用時間1時間あたり100㎞」、「大型車・特大車(乗合型自動車以外)は利用時間1時間あたり80㎞」の走行距離を基本とする上限が設けられています。以下の図で解説します。
えー、大型車両の高速道路上限速度は80㎞/hですが、速度計の誤差を5㎞/hまで許容して時速85㎞で走行したとします。(これ以上の速度でしたら速度違反になります、と暗黙で言っています)そして、22時から午前5時までの7時間走ったとしたら、厚労省の「4時間連続で走ったら30分の休憩を確保すること」という法令に基づいて考えると、実際に走行している時間は6.5時間になります。
よって、走行距離の上限は必然的に85㎞/h×6.5時間=552.5㎞になる、ということです。だから実際には560㎞走っているけど、割引対象距離も552.5㎞。だってそれ以上はどっかで違反していることになりますからね、というわけです。これだけでも十分複雑ですが、これが基本の考え方になります。
「いままで、全距離3割引だったのに、これじゃあ552.5㎞が実質上限じゃないか!ウチは1回で1,000㎞走るんだ。大幅値上げとおんなじだ!大損だ!!運送業の保護とか言いながらやってることは丸逆じゃないか!!!どうしてくれるんだ-っ!!!!」という怒りとも叫びともつかない声も聞こえてきそうです。
そんな方たちのために国交省とNEXCOが用意した案が以下の図に示す「長距離逓減の拡充」です。
簡単に言ってしまうと、いままでは200㎞以上どこまで走っても3割引だったのが、400~600㎞は4割引、600~800㎞は4割5分引き、800㎞以上は5割引にしますよ、という案です。一見良さそうに見えますが、でもこれ、大丈夫です?ちゃんと考えてます??
先の叫びの例で1,000㎞走るお仕事があったとして、その走行時間はこの制度が言うところの誤差付きで85㎞/hで走行した場合1,000㎞÷85㎞/hで11.76時間。まあ、12時間と見ましょうか。すると最低でも2回の30分休憩をはさまないといけませんから、13時間かかります。
無謀な運転の抑止策(案)には「上記計算は22時~翌5時ごとに行う。」と書かれていますから、割引を最大限受けるためには、1日目の22時に最寄りのインターを通過して、7時間後の2日目午前5時に約550㎞走ったところで一旦停止、そこから夜の22時まで高速道路を出ずに17時間休憩!!してまた22時から約6時間後の3日目午前4時に到着すれば、これまでの割引率を超えて距離逓減の恩恵を受けることができます。
17時間も途中休憩せずに残り450㎞を走行して割引時間対象外にインターを出てしまえば、その分の割引はなくなります。
13時間で到着するところを30時間かけて到着してもOKって仕事あります?1万歩譲って、仮にそんな到着が許されるとしても、2024年問題のドライバー残業年間900時間までという制限を合わせて考えるとどうなるんでしょう!?
しかも、制度の激変緩和措置として、制度変更後5年を目安に「深夜割引適用車両のうち1,000㎞以上走行した場合は、(割引対象時間外でも)1,000㎞を超える部分を割引対象走行分に追加」って・・・この恩恵を実のあるものにするなら、上記例の場合、1,000㎞以上も走行距離があるのに、17時間も休憩してから翌22時に再出発して翌々日の朝4時に1,000㎞突破してから、まだ残りを走れってこと?
その他にも制度変更後5年間は22時台に高速流出した場合は2割引、という措置がありますが、基本は3割引なのでこちらは割引率の削減になります・・・大丈夫ですかね、この制度。
利用者にはコントロールがむずかしい大渋滞とかあったらどうなるんでしょうか・・・渋滞があると、目的地インターを通過する時間は標準時間より遅れます。遅れてもそれが午前5時前なら、走行した「区間料金」に対して割引がかかるのだから割引額は変わりません。体は疲れるけど。
しかし、通常なら午前5時前に流出できるインターを大渋滞で5時を回っても出られなかった場合、走行区間は短くなり、5時以降に走った区間の割引は受けられません。通常なら深夜割引対象となる区間でも、クタクタになればなるほど、割引が受けられなくなるって理不尽な気がするのですが。
実質的な割引額の低下、無謀運転を防ぐための上限距離算出の複雑さ、時間軸と見合わせた距離逓減制の矛盾、大渋滞時の割引適用範囲の低下など、この制度改定案には未消化な点が多く見られます。
また、制度変更案には距離に対する割引と出てきますが、「インター間の設定された区間料金に対する割引」なのか「高速道路料金の基準である(24.6円/km×利用距離+150円)×1.1(消費税):普通車の場合 に対する割引」なのかよくわかりません。
車両の位置は高速道路内に新たにアンテナを設置し、インター通過時間と合わせて車両位置を計測するとありますが、高速道路内に無数の料金計測用アンテナを立てることは現実的ではないため、おそらくインター間の既存料金に対する割引になると思われます。しかし、それもインター間のどこを走っているのかで不公平感も出てきそうです。
さらに、仮に目的地半ばまで渋滞していて、まだだいぶ距離はあるが、午前5時までには走り切れないという場合には、夜明け前に割引料金を稼ぐためのスピード超過など危険運転を誘発しかねません。
ここまで複雑なシステムを組み上げ、新アンテナ設置などの負荷を伴う制度変更を、はたして「東京料金所の0時待ち解消」のためだけにする必要があるのでしょうか。どうしても「壮大な割引額の抑制策」に見えてしまうのは私だけでしょうか。
もりや産業は、引き続きこの制度がどのようになっていくのか注目していこうと思います。そのなかで、みなさまのお役に立つことができる機器やグッズがわかれば、積極的に紹介してまいります。物流は、社会の血液です。無理なく、よどみなく流れる制度になることを期待します。